氷河期寓話 赤ずきんと蝶々 1
寄り道をしない赤ずきん
赤ずきんはお母さんの言いつけを守ってお使いやお手伝いをするよい子です。
「おばあさんの家にワインとケーキをととけておくれ。
決して寄り道をしてはいけないよ、悪いオオカミが出るからね。」
さて、この赤ずきんは愚直なまでにお母さんの言うとおりに、お使いを終わらせて帰って来るのです。
綺麗な湖や花畑、きらめく蝶々、真っ赤な野イチゴやかわいい木の実、道中には素敵な物がいっぱい。
しかし彼女は寄り道なんかしません。
大人の言うとおりに良い子にしてさえすれば、きっとお母さんのようにお嫁さんになれたり、お父さんのように勤め人になれるだろうと信じていたのです。
ちょっと脇道にそれたら、リスやウサギの住処があることも、小鳥たちの集まる大樹があることも知っていましたが、寄り道はしません。
実はオオカミとも友達でしたが、お母さんを心配させまいと内緒にしていました。
内緒、内緒。
ある日、おばあさんの家に着くと、オオカミは洗濯物の取り込みを手伝っているところでした。
おばあさんは、オオカミが摘んできてくれた色とりどりのベリーでタルトを作って、庭のテーブルにお茶会の準備をしています。
オオカミは洗濯かごからおばあさんのナイトキャップをつまむと、頭にちょこんと載せておばあさんのマネをします。
「赤ずきんや、可愛い顔をもっと近くで見せておくれ。」
それがお約束の合図です。
おばあさん、どうしてそんなにおめめがギラギラしているの? それはね・・・
赤ずきんは内心、子供っぽい遊びだと思いながらも、子供らしいひと時を過ごすのでした。
赤ずきんが12歳になり、商家へ奉公(兼花嫁修業)に行くまで、内緒のお茶会は続きました。
少女の頃の終わりに
街に出る前に、おばあさんの家に挨拶にたずねると、おばあさんもオオカミも大そう喜んでくれました。
お約束の呼びかけ遊びも今日でおしまいです。
おばあさん、どうしてそんなに・・・「わたしを好き?」
おばあさんは「愛しているよ、赤ずきん。」と答え
オオカミも「好きだよ」と答えました。
帰り道には途中までオオカミが送ってくれると申し出ました。
これが、赤ずきんの初めての寄り道になりました。