氷河期寓話 白雪姫 2、姫君と七人のオタク
ママ上(継母)は魔女
家族三人は約束の時間まであわてて準備して、パジャマで姫の部屋に集合した。
王はアイスクリームと、姫の好きなプチプラ化粧品を持参。
継母は異国みやげの服と、大きなバッグを持参。
姫の部屋は客用布団の上にクッションやぬいぐるみが並べてあり、少女らしい飾り付けをしてあった。
テーブルには菓子と取り皿、リボン猫のティーセット、それとなぜかペンセットがあった。
「あの、ママ上。『オシャレ魔女ジーナ』ちゃんのファンブックにサインをお願いしますっ!」
イーザが色とりどりのペンに感激しながらサインしている間に、姫は目ざとく王のプレゼントをねだった。
「わっ、CanメイクとSeザンヌの新色だぁ!父上ありがとうー!」
「イーズちゃんとお買いものデートの時に選んでもらったんだ、やっぱ女性の意見が聞けるとパパ助かる~。
『古くなったのはお肌に悪いから捨てて』って、イーズちゃんが言ってたよ。」
一通り騒いで夜食タイムになったとき、アイスを食べながら白雪姫が訊ねた。
「ねえパパ、あんなに嫌がってたのにどうして再婚する気になったの?」
「それはね、イザベル推しヴァルハラ会最期のメンバーになったからだよ。
最初は少年時代のアンジーママとパパだけの会だったのだけど、各国の王子王女たちも加入してきてね、オタサーになったんだ。
昔のイーズちゃんはA父王について見事な政治手腕を振るっていて、僕たちの憧れだった。」
「パパぁ?新婚夫婦の共通趣味がバイトとオタサーって、結構学生っぽいコトしてたのね?」
「ベルちゃん、青春と言ってくれ。
イーズちゃんがB国の老王に嫁ぎ老衰にて死別、C国の王に嫁ぎ二児をなすが暗殺により死別、その間の政治信条と実行力の素晴らしさ、国民を想う姿、
気丈にも運命に立ち向かう姿に私たちはシビれてたんだ。
公務で会える時は共に語り合い、国交のない国や敵対国の王子たちとも密書を交わし、サークル活動の間だけはただの一ファンでいられた。
文化も宗教対立も越えて、私たちはただ政治家志望の少年たちだった。
これが後に世界和平に通じるとは、あの時は思いもせなんだが。」
著書にサインと熱心な書き込みを終えたイーズが振り返り、呆れたように言った。
「オタサー?国境なき騎士団じゃなかったの?」
「イザベルさん本人宛の密書に(イザベル推しヴァルハラ会)とは、さすがに恥ずかしいから、かっこつけたネーミングを皆で考えたんだよ・・・。
君は戦乙女ヴァルキリー、私たちは命果ててもヴァルハラで再び会おう!って、
中二病入ってたけど、アンジー含め短命なメンバーも居たからね、戦争や暗殺、疫病なんかで。
誰か欠けるたびに、私もいつかヴァルハラで再会することを誓ったものさ。」
父王の訳のわからない話に眉をひそめる姫に、イーズは土産物の異国の布を取り出して羽織らせていた。
「ちょっと背伸びしてキャミワンピースに仕立てようかしらね?この更紗は着心地がいいからお部屋着になるようにショールも合わせたいわねぇ。」
「わっ綺麗!どんな服になるのかなー。ショールの布は、これは絹?すごい!
・・・ママ上・・・?
オタサーに推し活動されるなんて、どんな感じだったの?
何か怖いことなかった?」
イーズは席に戻り、服のデザイン画を描きながら語った。
「怖かったわ、夫や子供たちと別れるのも、政略結婚も。
C国の次はD国の側室になったの、破綻した経済にテコ入れして欲しいってお願いされたのだけど、私がD国で資料を見ていた時にはもう手遅れだったの。
長年の重税と飢饉が重なって、支援政策より早く暴動が始まったわ。
そのまま革命の波が王宮になだれ込んで来るのはすぐだった。
富を独占していたと見なされた者は王族貴族まで投獄され、裁判にかけられたわ。
私も幽閉されてとても怖かった!
黒の未亡人、執務室の魔女と呼ばれたわ。
でも、獄中で拷問も乱暴もされなかったのは、国境なき騎士団のお陰だったの。
ね?騎士さま?」
イーズから視線を送られて、王が照れながらも演説した。
「諸君、我々はもう無力な皇太子ではない、王だ!
ここでヴァルキリーひとりを護り抜けなくて何が王かッ。
先にヴァルハラへ旅立った者たちの為にも、使命を帯びて遺された我々が女神を奪還しようぞ!
・・・これでいい?
えー、革命を見越しててね、まぁ、こんな感じの密書がオタサーの残り7名の間で行き交っていたのよ。
あの時の清い少年たちは、相続争いだの暗殺だの戦争でもなお生き残り、王になった奴らは、政治的勘が効くし、ある程度ズル賢い汚い大人になっちゃってたんだよ。
反則は承知で、7人で多少汚い手を使わせてもらった。
こればかりは許せなかったんだ、我らが女神が魔女狩りのような扱いをされてしまう。
『民衆を扇動する自由の女神』という偶像に、我らの女神が殺されてしまう。あの絵は今もキライっ!
7人が寄ってたかってロイヤルチートを使って、イザベルの安全を確保し、公然と亡命させた。」
「父上、実は演説できるんじゃん。暗君じゃないじゃん。」
「ベルちゃん、PTA役員で鍛えられたんだよ。まあアレだ、君のおかげだよ。」
王たるもの、城内に七人の敵あり。
姫君たるもの、国外の七人の騎士あり。
まだ続く