雪割草とマッチ売り

氷河期乙女()の雑記、再起と貧困と。

氷河期寓話 白雪姫  1、ゆとり姫はお小遣い稼ぎが楽しい。

王の再婚、ふたりのイザベル。

 王が再婚を決めた。

父子家庭のファザコン娘である白雪姫は思春期まっただ中、王も再婚には戸惑っていたのだが、チャンスを逃すまいと急いだ縁談だった。

そろそろ生意気な口をきく娘とオシャレ魔女の初対面に、王は心が重かったのだが、二人の反応は意外なものだった。

 

「全然感じが違うのに、母上にそっくり・・・!」

瞳を潤ませ頬を抑える姫の手を、魔女の手が包んだ。

「あの頃の、陛下を見つめていた時のアンジーにそっくりだわ!」

 

アンジー(アンジェリーナの略)とは白雪の亡母で、魔女イーズの妹だった。

王家の嫁に、素性のわからない本物の魔女が来るはずもなく、妹なき後姉が後妻に入ったという、政略結婚にありがちなパターンだった。

 

二人はかしましく話し合い、食事会の後にも約束をしていた。

王は杞憂どころか、すっかり置いてきぼりにされてしまったのを苦笑いしながら見ていた。

王の幼い頃、母や姉妹がにぎやかにしていたのを思い出した。

 

イザベルたち、今夜はパジャマパーティーにしようよ、パパも混ぜてほしいんだが。

王が呼びかけると二人は嬉しそうに振り向いた。

白雪姫は亡母が妊娠中から願いを込めてつけていた愛称で、本名は敬愛する姉の名前を貰ってイザベルと名付けたのだった。

アンジェリーナ后は仲の良い姉ををイーズの略称で呼び親しんできたので、姫はベルと略して呼び分けることにしていた。

 

顔合わせの茶会は和気あいあいと進み、王はパジャマパーティーのために夕食の時間を少し早めてくれるよう侍従に頼んだ。

 

姫君のお手伝いポイント

白雪は少女らしく笑って

「私、ママ上のご本予約して買ったの!

パパがファン活動は自分で努力したお金でするものだっていうから、お手伝いポイント貯めて、期末テストも頑張ったの。」

 

イーズは少し驚いて、白雪がどんな働きをしたのか訊ねた。

「城内のアルバイトに混ぜてもらったの。

 洗い場や野菜の下拵えとか、花壇の植え換え、浴場のお掃除。

 高校生の先輩方が色んなこと教えてくださって、オシャレ魔女ジーナちゃん(継母の筆名)のお話もしてるわ。

 休憩時間にまかないをご一緒したり、任される仕事が少しずつ増えたり、勉強の得意な先輩には家庭教師をお願いしたり・・・楽しいから受験勉強が始まるまで続けようと思うの!」

 

イーズは王の教育方針に驚いたが、嬉しそうな姫の様子を見て微笑んだ。

「そうね、高校生になったら白雪ちゃんにも後輩ができてもっと楽しくなるわね。

パジャマパーティーでもっとお聞きしたいわ。」

 

「はい!父上、ママ上、私の部屋でベッドメイクして、お夜食用意しておきます。19時集合よ。」

白雪姫が慌ただしくお辞儀をして退室する。

 

イーズが王の教育方針を称賛し、白雪姫は素晴らしい娘に育ったと言うと、王ははにかみながら新妻を見つめて言った。

 

「容姿はアンジーにそっくりだけど、性格は活発な君に似ているだろう?

私も王子時代にアンジーと一緒にバイトをさせてもらっていたんだよ。

アンジーにお義姉様、君のカレンダーやファンブックを買ってあげたくてね。

15で嫁いで来てホームシックになりがちだったアンジーには、社交界の義務的な付き合いより楽しそうにしていたよ。」

 

訳あって魔女とあだ名される新妻はしみじみと言った。

 

「最期の騎士さまが貴方で良かった。

アンジーは娘らしい時間を過ごして来たのね、あの子みたいにキラキラ笑って。」

 

暗君はイクメン

白雪姫のパジャマパーティーは、普段は学友やバイトの先輩の少女たちで行われる。

王は父として自ら保護者同士の連絡をとり、馬車を出して少女たちの送迎もした。

娘らにうるさがられても、ちゃんと宿題しなさい早く寝なさいと小言を言い、手土産のお返しを用意し、ケンカがあれば仲裁した。

 

姫が5つの時からシングル育児を通して来れたのは、かつてバイト仲間だった使用人たちが親身に相談に乗ってくれたお陰でもある。

 

冷戦中の他国からは暗君呼ばわりの王ではあったが、地元の保護者会役員としては信頼を得ている。

姫の部屋でのパジャマパーティーに父王が招待されるのは今回が初めてで、姫がもてなしてくれるのも初めてのことだ。

 

再婚相手が姫の亡母に似ていただけでなく、姫の憧れるファッションリーダーだったこともあって、姫は予想以上に父の再婚を無邪気に喜んで、パーティーに参加させてくれたのだが…

父王としては、ファザコン娘が多少はヤキモチを焼いてくれるのではと期待していたのに、拍子抜けするような反応で、淋しいような、まだまだ無邪気な娘が愛おしいような複雑な気分だった。

 

続く